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記事No.009 知ってどうなる!2章13話小ネタ話

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今日は。鈴木です。
東京でも雪が降ったりと、寒い日が続いていますね。

さて、今回の『来迎+α』の記事に入る前に一つ書いておかなければならないことがあります。
漫画本編を既にお読みの方はご存知の事とは思いますが、2章13話~14話には東日本大震災の描写が出てきます。
この描写に関して、「漫画(フィクション)で扱うには不謹慎だ」というご意見があるかもしれません。
実際、私もネームを描く際にその点は躊躇したところがありました。
しかし、被災当事者でないにしてもリアルタイムであの出来事を経験したことや、その後の私の世界の見方や人生観が大きく変わったという事実、そしてその苦しみが多くの方にとって未だに続いている事を考えると、自己の精神の中で未だに未消化で反芻され続ける東日本大震災の内的体験を畏怖の念をもって【表現/フィクション】として描くことには確かな意義と、社会的正当性があると判断いたしました。
個人の経験を越えて『忘れてはならない苦しみ』があると考えています。その苦しみを共有することでしか引き継げないものが、確かに存在すると思っています。そしてそれは【表現】に昇華することで普遍性を帯びるのだと考えます。
私たちの漫画がそのレベルまで到達できていたかどうか、至らなかったとしたらその責任は私にありますが、『東日本大震災というモチーフ』に挑戦すること自体には意義があったと考えております。
一方的ではありますが、どうかご理解いただけますと幸いです。

では、今回の『来迎+α』の記事をどうぞ。


今話の冒頭では唐突に仏教の開祖である『仏陀(ガウタマ・シッダールタ)』の人生が語られ、少し驚かれたかもしれません。これには大きくは物語構成上の2つの理由があります。1つは、13話・14話のお話が『公威にとっての四門出遊(しもんしゅつゆう)』のエピソードであることを暗示するためです。四門出遊という逸話の根幹は、「仏陀がこの世の無常を悟り出家を決意する」という部分にあり、これを現代に生きる公威というキャラクターに重ね合わせてみました。仏陀の現世に対する絶望感は個人的な経験を越えた普遍的絶望(←これを私は「仕方ない」と呼んでいます)であり、これほどの絶望を現代日本に生きる人が感じるとしたらどんな経験があり得るのか…そう考えていった先に、東日本大震災をモチーフにするという考えが生まれました。2つ目は、仏陀が生まれた時に『将来、救世の王となるか真理を悟る聖者になる』という予言を受けた、というエピソードを物語における「公威の運命」として暗示したかったからです。考えてみれば、この仏陀の受けた予言と言うものは非常に面白い示唆を含んでいると思います。と言うのも、「救世の王」と「真理を悟る聖者」は同じ属性を備えている、と言っている様にも読み取れるからです。優れた王様(政治的リーダー)と宗教者が、コインの裏表のように本質的に同じ能力が必要とされるという発想は、個人的には深く納得するところがあり、このテーマを公威と言う人物に投影してみたいと考えました。そんなこんなで、今話の冒頭部分が生まれたのでした。


公威と夕珠悧(ゆずり)は7歳年が離れた兄妹ですが、本編内では何となく『恋人』の様な感じで描かれています。その理由は、P5で幼少期の公威が読んでいる『本のタイトル』にそれとなく暗示してあるのですが、これについては次回の来迎+αで記事にしたいと思いますので、今回は語りません。
ともあれ、公威の生家には古典の蔵書が溢れ、幼い頃から夕珠悧にそれらを語って聞かせるうちに公威自身も古典の知識が深く身に付いていったのでした。この蓄積がまさか四ツ手軍との戦いで役に立つとは、本人も知る由も無し。才が必要に迫られて結果的に剣豪に育っていったのと同じく、公威もまた無自覚に戦略家としての素養を培っていたのですが、人が大きな運命の中でその能力を発揮するというのは、案外こういうことも有るのかもしれません。
ちなみに夕珠悧の髪の毛はもともとは黒髪でしたが、心労たたって子供の頃から白髪になってしまったという設定です。このため、公威は「白いもの」に対してセンシティブに反応してしまいます。才が頭髪も含め、全身白っぽい姿であったので、公威は無意識にその中に夕珠悧の面影を見ていたのでした。


公威と猛己(たけみ)のバーディーカット。猛己というキャラはこれまで断片的にチョイチョイ出てくるのですが、まだはっきりとどんな人物なのかは描かれてきませんでした。この絵では公威の後ろの影が「青色」で猛己の影が「赤色」で描かれているのですが、これは各人物の本質的性格を暗示しています。また、それが混ざると「紫色」になるというところにもこの二人の関係性の暗示(比喩)があります。紫色は古来、「高貴な色」であり「王の象徴」でもありました。つまり、この二人が共に行く道は「覇王の道」であることを示しており、同時に、一人では不完全であることも現しています。こういった表現は通常のモノクロ漫画ではできない、カラーだからこそ成立する表現なので、カラーと言うものが表現の幅を広げてくれる一例ではないでしょうか。(…単行本、どうしようw)
ちなみに、猛己はフルネームだと『嘯原猛己(しょうげんたけみ)』という名前です。苗字の『嘯原(しょうげん)』というのも実は公威との関係性を暗示する要素になっているのですが、果たしてコレにピンとくる人はいるでしょうか?


夕珠悧(ゆずり)が大切に持ち歩いている扇は『香扇(こうせん)』といって、香木を加工して作られる扇です。この扇は扇いで使うというよりかは、その際に香る香木の香りを楽しむというもので、目の見えない夕珠悧でも楽しめる様にと公威がかつてプレゼントしたものでした。(このエピソードについては、マンガワンで本編と同時に配信されている『ちょい足し原稿 / 夕珠悧の扇』に詳しく書きましたので、宜しければそちらをご覧ください)
この扇は白檀(びゃくだん)という香木で作られ、表には波の絵が描かれています。白檀と言うのはお線香の材料としてよく使われる香木で、おそらくは誰でも一度は嗅いだことのある香りです。それなのに夕珠悧はこの香扇から「海の香りがする」というのです。これは夕珠悧の未来を暗示するのと同時に、公威との絆を象徴する重要なセリフです。「運命の日」まで、この扇は「夕珠悧にとっての公威」であったのに、その日を境に「公威にとっての夕珠悧」となってしまう、悲しい扇なのでした…。


『モチーフとしての東日本大震災』に関しては今回の記事の冒頭で書きましたので割愛させて頂き、ここでは「絵」に関して説明させて頂きます。このカットは、背景作画チーフの岡田ケンジさんがものすごく緻密に描いてくださり、また玉野君が必死にデジタル着色で塗り上げてくれました。スマホで見る分にはあまり細部まで見れないかもしれませんが、実際の原稿データ上では猛烈に絵が描き込まれています。どこかのタイミングで、なめくろ館に原稿ギャラリーを設置してPCなどの大型モニターでしっかり見れる様にしたいと思っているのですが、特にこのカットは制作陣全員が心血注いで描き上げた渾身のカットなので、しっかりと細部まで見て頂けたらと思っております。
ちなみに、津波にのまれる前の部分(前景~中景)で建物が倒壊していたりするのは地震による影響という設定です。


今回の『来迎+α』はここまでとなります。また次回をお楽しみに!

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