こんにちは。鈴木です。
そろそろ春本番という感じの、気持ちの良い気候になってきましたね。
今回の『来迎+α』は2章の11話・15話・16話からそれぞれピックしてみました。
どれも電子書籍3巻に掲載されているお話なので、電子書籍で読んだ後にこちらもお楽しみ頂ければと思います。
それでは今回の『来迎+α』をどうぞ!
才は実際に異変が起こる前から四ツ手が「見えて」いましたが、七海やその先生の様に「聞こえて」いた人たちもいました。ただ聞こえる度合いというか、どのように聞こえていたのかにはバラツキがある様で、七海の先生は四ツ手の言葉も理解できていました。果たして先生はこの四ツ手の侵略戦争の真意をどこまで掴んでいるのでしょうか…。そして見たり聞いたりする以外の形でも四ツ手の事を感知していた人はいるのでしょうか…?
公威の出会った「老人の四ツ手」。涙を流しながら公威に必死に何かを訴えていましたが、一体何を伝えようとしていたのでしょうか。15話はストーリー構成上、2章の分岐点となる重要なお話でした。この回のモチーフは平家物語の『敦盛』のエピソードであり、この老四ツ手は熊谷直実(くまがい なおざね)をイメージしながら作ったキャラクターでした。敦盛のお話は、クライマックスで直実が『仲間への忠義を選ぶか、人としての情けを選ぶか』激しく葛藤するお話です。そのイメージで、「公威の側・老四ツ手の側」両方の立場から15話を読んで頂けるとより楽しめるのではないかと思います。なお本編では説明されませんでしたが「カンムイ」という言葉は『神様』といったニュアンスの四ツ手語です。
15話のネーム作成時に一番悩んだのが上の画像の右コマ部分でした。初稿ネームではこのコマに「走り出した公威の足元のアップ」の絵が入っていたのですが、何度読み直してもその部分はしっくりこず玉野君も同じ印象だったので、何か間違ってるなと確信しました。そこからかなり時間をかけて思い付いたのが「ああ…分かり合えてしまう」という台詞でした。この一言の台詞に差し替えただけで15話は大変重要なテーマを示す回になりました。それはつまり、公威が自分のしようとしている事に対して心の底から「後ろめたさ」を感じた、という点にあります。この時公威の中には、僧侶としての自分と殺戮者としての自分が明確に対立し、整合不能な葛藤が生まれたのでした。
16話でグッドウィン中将が語っている点は、別に政治的な意味(改憲賛成とか徴兵制の推奨とか)での発言ではなく、鈴木の素朴な疑問からでたセリフでした。専守防衛を是とするならば、そのために「全員が負う責任」は何なのか。そのことが私は昔から疑問でした。専守防衛というある意味で特殊で困難な安全保障体制を維持するには、一部の人だけが責任を負担する形式というのはどこかに無理があるし、筋が通らない様な気がします。現在の世界情勢の不安定さを考えたときに、この点については真剣に考え続けなければいけないなと思いながら描いた回でした。
というわけで、今回の『来迎+α』はここまでとなります。また次回をお楽しみに!